妄想劇場 ~今日だけのこと~

ああ、今日だけは早く帰りたかったのに。

日向秋はそわそわと時計を見た。時刻は午後6時を回り、窓の外は真っ暗になっている。
ヨシザキ先生の原稿があがるには、まだしばらく時間がかかるだろう。責めることはできない。いつものように彼は全力で原稿に取り組んでいる。
何度か躊躇った後、彼女はため息をついて携帯を取り出した。

「もしもし、夏美? あの‥‥ごめんね。どうしても今日中に印刷所に回さなきゃいけない原稿待ちで‥‥遅くなりそうなの。ごめんね、こんな日に。本当に、今日だけは早く帰らなきゃって思ってたんだけど‥‥」

いいのよ、気にしないで。冬樹とボケガエル達と、こっちはにぎやかにやってるから大丈夫!ママはお仕事頑張ってね。
電話の向こうで娘は明るい声で言う。それがかえって悲しい。今日くらいは文句を言ってもいいのに。

「それでね、ママからのプレゼントなんだけど‥‥」

ピンポーン♪ 玄関のチャイムが鳴った。

「ごめんね、夏美。また後でかけ直すから」

慌てて電話を切ると、「私が出ますから、ヨシザキ先生はお仕事に集中なさってください」と仕事部屋に声をかけた。
さて、誰かしら。他社の編集さんじゃないといいけど。

「お待たせしました~ ‥‥え?」

玄関にいたのは、長身のスーツの男だった。よく見知った顔。ただ、何でこんなところにいるのかわからない。

「全く、待ちかねたぞ」
「‥‥何やってるの? ギロちゃん」
「こっちのセリフだ。何をやっている、日向秋? 今日は夏美の誕生日だぞ!」
「わかってる。でも、だからって仕事を投げ出すわけにはいかないもの」
「俺が代わる。原稿とやらが仕上がったら、角山書店へ持っていけばいいのだろう?」
「そうだけど‥‥でも、そんな簡単なことじゃないわ。それに、これは私の仕事なの」
「今日だけのことだ。今日だけ、夏美のために自分の任務を人に任せることはできないのか?」

秋はうつむいた。彼の言うこともわかる。だけど、私は‥‥。

「やっぱり、人任せにはできないわ。ギロちゃんだってそうでしょ? 今日だけは侵略は私に任せてって言ったら、納得する?」

ギロロは苦笑した。この頑固さは、間違いなく夏美と冬樹に受け継がれている。

「フン、どうせそう言うだろうと思った。ならば俺も付き合おう。移動の時は、俺のソーサーに乗れ。それだけでも時間がかなり稼げるはずだ。まさか、それは拒否しないだろうな?」
「‥‥ありがと、ギロちゃん。甘えさせてもらうわ」
「礼などいらん。俺はただ、夏美に『家族いっしょの誕生日』をプレゼントしたいだけだ」
「私はプレゼントってわけ?」
「そうだ。何なら、リボンをかけてもいい」

くすくすと秋は笑う。この強面の宇宙人は、存外ロマンチストだ。

「おまえは、夏美へのプレゼントを用意してあるのか?」
「勿論よ。娘の欲しいものくらいリサーチ済みです。もう買ってあってね、食器棚の上に隠してあるの」
「ほう」
「そうよ、さっき夏美にそれを言いかけて途中になっちゃったのよ!私は当分帰れないけど、せめてプレゼントは見てもらおうと思って。隠し場所を教えなくちゃ」

携帯をとりだした秋に、ギロロは首を振った。

「やめておけ」
「どうして?」
「‥‥たぶん、直接渡された方が嬉しい」
「遅くなっても?」
「遅くなってもだ。それに、俺がおまえを早く送り届けるからな」

秋は唇を尖らせた。

「何か憎らしいわね。何で母親の私より、ギロちゃんの方が夏美のことをわかってるふうなのよ」
「べ、別にそんなつもりは‥‥」

「日向さん、できたところまで原稿チェックお願いしま‥‥おわっ!」

仕事部屋から顔を出したヨシザキ氏は、ギロロの姿を見て目を丸くした。

「えーと、そちらの方は‥‥?」
「ふふふ、今日だけの頼もしい助っ人なんです。ちょっと赤いけど、信頼できる人だから気にしないでください」
「そうだ、気にせず原稿に集中しろ」
「はあ」


それからさらに数刻後、最後の原稿を日向秋に渡したヨシザキ氏は完全にヘロヘロで、「ちょっと赤い人」の異様さなど完全にどうでもよくなっていた。

「ど、どーれすか、日向さん?」
「‥‥ヨシザキ先生、素晴らしいです!いつもいいですけど、今回の原稿は今までで最高!読者の反応が楽しみですね」
「よかった‥‥」
「じゃあ、後は私に任せてください。ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます。あれ?そういえば赤い人は‥‥」

「何をしている、とっとと来んか!こちらの準備はOKだぞ!」

玄関の外から、声がした。

「じゃあ、これで失礼しますね。ヨシザキ先生、お疲れさまでした!」
「あ、ああ、ハイ」

秋が玄関から飛び出すと、そこにはもう、今にも飛び立たんとするソーサーが浮かんでいた。操縦席には「赤い人」

「早く乗れ!」
「頼んだわよ、ギロちゃん」






日向秋が、自宅に帰り着いたのは、それからまもなくのことである。

「夏美、ただいま!」
「ママ、お帰りなさい!」
「ごめんね、遅くなって‥‥」
「ううん、忙しいのに、思ったよりずっと早く帰ってきてくれた。すごく嬉しい‥‥」
「うふふ、あらためて、お誕生日おめでとう!」

秋が、夏美をその豊かな胸にぎゅっと抱く。

「ママ、苦しいってば!」

そう言いながらも、嬉しそうな夏美は、ふとあることに気が付いた。
秋の腕にかけられた、大きな赤いリボン。

「どうしたの、そのリボン?」
「うふふ。ママはね、今日はプレゼントでもあるのよ」
「どういうこと?」
「今、ここにいない人から夏美へのプレゼント」
「それって‥‥」

今ここにいないのは。もう一人、いてほしいのに、いないのは‥‥。



「ギロロ」

赤いテントに、夏美が呼びかける。すぐに出てきた赤いカエルは、不思議そうな顔をした。

「何だ?何か用か?」
「私の誕生日パーティー、何でアンタ来ないのよ」
「その‥‥家族水入らずの方がいいのかと思って」
「アンタだけ遠慮してどうすんのよ。ボケガエルも、タママもドロロも、クルルでさえいるってのに!」
「そ、そうか?」

目を白黒させるギロロに、やれやれという表情で夏美は言った。

「‥‥ありがと。ママが思ったより早く戻れたの、ギロロのおかげなんでしょ?」
「別に、大したことはしてない」
「すっごく嬉しかった」
「そうか‥‥おまえを喜ばすことができたのなら、俺も嬉しい」
「プレゼントが、ママなんてね」
「いやその、ただ俺は『家族いっしょの誕生日』をおまえに贈りたかっただけなんだ」

そこで夏美は、悪戯っぽく笑った。

「あら、だったらまだもらってないわよ?アンタも来ないと『家族いっしょの誕生日』にならないもの」
「家族? 俺が?」
「そうよ」
「俺は‥‥侵略者だぞ?」

何言ってんのよ、今さら。そう思ったけれど、ギロロなりのこだわりがあるのだろう。

「いいじゃない、特別な日なんだから。今日だけは家族でいてよ」
「きょ、今日だけだぞ!」

いつもよりもっと体を赤くして、こちらも見ないで皆のいるリビングへ向かうギロロ。
すました顔で夏美は答える。

「いいわよ、今日だけで」

そうよ、家族ごっこは今日だけのこと。
だけど知ってる? 明日になれば、新しい「今日」が来るだけ。

今日も、明日も、明後日も、その先も ――― 私達と侵略者は、「今日だけ」の家族。


FIN


日向夏美ちゃんお誕生日プロジェクトに投稿した作品。
勿論ギロ夏が好きなのですが、そこに限らず、ケロン人達と日向家の関係が大好きなのです。
敵同士だけど家族。刹那的で永遠。そんな関係。 (2008.12. 8)

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