妄想劇場 ~君に会えたあの日~

転校生のゼロロは、決して目立つ方ではなかったけれど、何にでも一生懸命で、いろいろなことをよく知っていて、そして誰より優しかった。
つまり、いいヤツだったんだ。

そのことに最初に気付いたのはケロロで、最初に声をかけたのも、やっぱりケロロだった。
そうして俺達は、あっという間に仲良くなった。

「おい、ギロロ!ゼロロ!今日は放課後、何して遊ぶ?」

今日もケロロが、いつものように、俺とゼロロを呼ぶ。

「そうだ、今日は小川で遊ぼうぜ!決まり!」

何して遊ぶ?と聞いといて、次の瞬間勝手に決めてしまうケロロ。いつものことだ。
まあ、いいさ。ケロロの思いつきはいつだって面白いし。
今日は久々のぽかぽか陽気で、小川で水遊びをするにはぴったりだ。

「そういえば、ゼロロと小川に行ったこと無かったんじゃね?」
「うん。僕、初めてだよ。でも‥‥」
「何だよ、ゼロロ?」
「今日は僕、お母様と出かけることになっているから、遊べないんだ」
「そんなの違う日にしてもらえばいいじゃん!」
「え? で、でも~」

けろりと勝手なことを言うケロロに、ゼロロはおたおたしている。

「無理言うなよ、ケロロ」
「ちぇー」
「でも、今日みたいに水遊びにぴったりな天気は久しぶりなんだ。母ちゃんに話してみて、もしゼロロも来られたら来いよ」
「うん! ありがとう、ギロロ君」

そこで俺達は、じゃあな、と別れた。


家に荷物だけ置くと、訓練所の裏山にある小川へと急いだ。
途中でケロロがいっしょになった。

「ゼロロ来るかな?」
「どうだろう。まあ、無理でも次があるさ」

走って、走って、小川が見えた。そして、青い人影も。

「何だ、ゼロロもう来てるじゃん!」
「本当だ。ゼロロ、早かったな」

だけど、おかしいんだ。ゼロロはもじもじと恥ずかしそうにしていて、俺達の方に来ようとしない。

「おい、ゼロロ。何やってんだよ。早く川に入って遊ぼうぜ!」
「えと‥‥あの‥‥」

ゼロロは確かに内気だけれど、今さら俺やケロロに恥ずかしがるのは変だった。

「何だよ、はっきり言えよ!」
「‥‥じゃないよ」
「は?」

ケロロはもう、イライラし始めていた。
早く皆で遊びたいのに、ゼロロの様子がちょっとおかしいからだ。

「聞こえないよ!はっきり言えってば!そんなところで、女みたいにもじもじすんなよ!」
「おい、そんな言い方‥‥」

あんまりキツイ物言いに、さすがにマズイと思ってケロロを止めたが、遅かった。
ゼロロの青い瞳がうるうるしている。

「‥‥私、ゼロロなんて名前じゃないし、女の子だもん」

泣きそうな声で、ゼロロは言った。ゼロロじゃないって。女の子だって。

「はあ?」

俺とケロロはぽかんと口を開けた。だって、どう見てもゼロロだ。
何言ってるんだよ。冗談にしたって、意味不明すぎるだろ。

「ゼロロ、何言ってんのさ?どー見ても、おまえはゼロロだし、まさか女の子のわけないじゃん!」
「‥‥‥」
「ほら、早く遊ぼうぜ!」

ケロロは、ゼロロの言葉をげらげらと笑い飛ばして、彼の手をぐいと引っ張った。

「ゼロロじゃないし、女の子だってばっ!」

泣きそうだった「ゼロロ」は、その瞬間怒りに燃えた目でケロロの手を振り払い、そして何と、ケロロの足を蹴飛ばしたんだ。

「ゼ、ゼロロ!?」

びっくりした。本当にびっくりした。

「いてーーっっ!!何すんだよ、ゼロロのバカヤロー!」
「おい、待てよ、ケロロ。こいつ、本当に‥‥」

大袈裟に騒ぐケロロをなだめて、俺はもう一度「ゼロロ」のことを見た。
確かに、いつもと違うんだ。

「もしかして、本当にこの子、ゼロロじゃないぞ。よく見てみろよ」
「ゲローーッ、マジで?」

マスクをかけた顔はまさにゼロロそのものだったけど、帽子の形はいつもと少し違っていた。女の子がよくかぶっているような形だ。
声もいつもより高い気がしたし、立ち方も何だか内股で女の子っぽい。
それより何より。軽くとはいえゼロロがケロロを蹴飛ばすなんて!

「あのゼロロがおまえを蹴るなんておかしいよ」
「うーん、確かに。‥‥じゃあ、この子は?」
「わかんないよ。ゼロロの姉ちゃんかな?」

「ゼロロなんて子、知らないってば!」

ゼロロ似の女の子は、また不満げにそう言った。
とにかく謝ろうぜ、とケロロに耳打ちすると、ケロロは口をとがらせてわかったよ、と答えた。

「ごめん!人違い!」
「えっと‥‥ごめん。でも、俺達の友達のゼロロにあんまりよく似てたから」

俺達が謝ると、その子もきまり悪そうに頬を赤らめた。

「いいの。私も‥‥ごめんね。つい蹴飛ばしちゃって」

そう言って、ぺこりと頭を下げた。

「いいんだよ、蹴飛ばしてくれたおかげで、ゼロロじゃないってわかったんだから」
「おい!何でギロロがいいんだよ、とか言うんだよ!俺が言うセリフでしょ!」

ケロロはぷりぷり怒ってたけど、すぐに笑い出した。

「せっかくだから、いっしょに遊ぼうぜ。えーと、偽ゼロロも!」
「ぷっ‥‥何よ、その呼び方!」

まだほんの少し冷たい川に入ることを、その子は一瞬ためらったけれど、俺達に手を引かれて、すぐにいっしょに水遊びを始めた。

「なあ、何でマスクしてるんだ? ゼロロもいつもマスクなんだよ」
「私はね、ちょっと呼吸器が弱いんだって。このマスクが無いと、すごく咳が出て苦しくなる時があるの」
「そっか、大変だな」
「平気よ、慣れてるし。それに大人になれば治るかもしれないって」
「へー」

そういえば、ゼロロも体がちょっと弱いみたいだ。ゼロロも大人になれば治るんだろうか。

バシャバシャと水をかけあったり、宇宙ザリガニをつかまえたり、俺達3人は夢中で遊んだ。
不思議なんだ。
今日はザリガニだって、いつもよりずっとたくさん取れる。
わしゃわしゃとザリガニの入ったバケツを片手に「これ新記録じゃね?」とケロロが叫んだ。


楽しい時間が過ぎるのは、とても早くて。

「いけない、もう帰らなくちゃ!」

その子の言葉に、ようやく俺とケロロは、夕暮れがせまっていることに気が付いた。

「やっべ、父ちゃんに叱られる!」

慌てて川からあがって歩き始めたところで、嫌なものに出くわしたんだ。

「何でこんなところに‥‥」

野良アンドロメディアンハスキーだった。
ぐるるるる‥‥と、うなるそいつを見ると、足がすくんだ。
隣りではゼロロ似の女の子が青ざめている。ちらりとケロロの方を見ると、顔をひきつらせながらも、こくりと頷いた。

そうだよ、俺とケロロは男だから、いつか立派な軍人になるんだから。
こんなところでびびっちゃいられない。この子を守らなきゃ。

「しっ!しっ!」
「あ、あっち行け!」

二人で、精一杯いかめしく追い払おうとしたけれど、アンドロメディアンハスキーはなかなかいなくならない。
それどころか、今にも飛び掛かってきそうだ。

「どいて!」

え?と思った瞬間、山のようなザリガニがバケツごとアンドロメディアンハスキーに投げつけられた。あの子だ!

「きゃうん?」

まぬけな声を背に、もう俺達は走り出していた。
先頭を走っているのは、あの女の子だった。速い!嘘だろう?

「こっちよ!」
「バ、バカ!そっちは崖だって‥‥」
「平気!」

その言葉どおり、その子は小さな崖をふわりと飛び降りた。
ケロロと俺も思い切って飛んで‥‥尻もちをつきながら、何とか着地した。

「お、おまえ、すっげー!!」

恥ずかしそうに笑った顔は、やっぱりゼロロそっくりだった。
   

俺達は、この新しい友達が大好きになった。

「なあ、明日も遊べる?」
「うん、遊べるよ」

その子が答えると、ケロロはニシシと笑った。

「明日は、ゼロロも連れてこようぜ。二人が会ったら、絶対面白いって」
「そうだな!」
「うん、私も会ってみたい」

また明日、とその子と別れて歩き始めたところで、まだ名前を聞いてないことに気が付いた。
もうだいぶ離れてしまっている。
ケロロが手を振りながら大きな声で叫んだ。

「おーい、おまえの名前何ていうの?」
「‥‥!」
「何だって?よく聞こえない!」
「‥‥!」

どうしてもはっきり聞き取れない。ケロロはため息をついた。

「まあいいや。明日聞けるし。明日、忘れんなよー!」

その子は、大丈夫、というように笑顔で手を振った。



次の日、学校でゼロロに会った。

「ごめんよ~、ケロロ君、ギロロ君。やっぱり昨日は行けなかったよ~」
「いいよ。ゼロロの代わりに偽ゼロロに会えたから」
「ええっ?偽の僕?ど、どういうこと?」

ゼロロは目を白黒させながら、ケロロと俺の顔を代わる代わる見つめた。
ふふふ、見れば見るほど昨日の子にそっくりだ。

「俺達、ゼロロにそーっくりな女の子に昨日会ったんだよ」
「僕にそっくりな女の子?」
「うん。おまえ、姉ちゃんか妹っている?」
「ううん、僕には弟しかいないんだけど‥‥」

そうだよな。昨日の子だって、ゼロロなんて知らないって言ってた。

「ともかく、ゼロロとあの子を会わせてみたいんだ。今日も同じ場所で約束してるんだけど、ゼロロも行ける?」
「うん!今日は僕も行けるよ!」

俺達三人は、わくわくしながら、昨日の小川に行った。
だけど、あの子は来なかったんだ。

次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、ケロロとゼロロと俺は、あの子のことを待っていたんだけれど、二度とあの子には会えなかったんだ。

「‥‥おっかしいなあ。夢だったのかな?」
「俺とケロロで、同じ夢を見たってのかよ?」
「うん‥‥だって、こんなに会えないの、変だもん」
「うーん」
「考えてみたら、名前だって聞いてないし。あんなにゼロロに似てたのも何だか不思議だし」

そこでケロロはポンと手を叩いた。

「わかった!アレ、きっとオバケだったんじゃね?ゼロロのオバケ!」
「ええっ?ひどいよ、ケロロく~ん」
「オ、オバケのわけないだろ!変なこと言うなよ!」
「じゃあ、やっぱり夢かなあ?」
「そうだよ、夢、夢!」




一度しか会えなかった、夢のような女の子。
俺もケロロも、あの子のことは忘れかけていたある日のことだ。

「ねえ、今日は僕の家で遊ばない?」

ゼロロが、俺達を家に呼んでくれたんだ。

「お母様がね、せっかくお友達ができたんだから、たまには家につれてきたらって言うんだ。ケーキを焼いてくれるって」
「マジかよ!うっひょー、行く行く!」

ゼロロの普段の話や持ち物から、何となく、お金持ちの家なんじゃないかなって思ってた。
だけど、ゼロロの家は想像以上に大きかったんだ。
俺とケロロは、あんぐりと口をあけてゼロロの家を見上げた。

「うえー、おまえんち、でけー!!」
「すげー立派!ゼロロんち、お金持ちじゃん!」
「そ、そんなこと無いよ~。さあ、入って、入って」

ゼロロの家は、部屋の中だって、何だかピカピカだ。
もしかして、もしかしなくても、ゼロロってお坊ちゃま?

「お母様!友達のケロロ君とギロロ君が来てくれたよ~」
「まあまあまあ、いらっしゃい。よく来てくれたわね、本当によく来てくれたわね」

現れたのは、優しそうな雰囲気のゼロロの母ちゃんだった。
だけど、顔はよくわからない。
だって、ゼロロの母ちゃんときたら、すごい勢いでぺこぺこお辞儀をするんだ。

「ゼロロと仲良くしてくれて、ありがとう。ありがとう。ありがとう」

ゼロロの母ちゃんが何度も何度も俺達に頭を下げるから、俺までつられてぺこぺこと頭を下げてしまった。
友達になっただけなのに、お礼を言われるなんて変なの。
そんな時もケロロは、へっちゃらな顔で大あくびなんかしている。

「おいケロロ、おまえも挨拶しろよ!」
「へいへーい」

そこでようやくゼロロの母ちゃんは顔を上げて、俺達の顔をじっと見た。

「ぶーーーっ!!!」

悪いと思いながら、俺とケロロは吹き出してしまった。だって‥‥‥

「ゼロロの母ちゃん、ゼロロとそっくり!!」

何て似てるんだろう。親子は似てるっていうけど、まるで双子だ。
ひーひーと笑い転げる俺達二人を見て、ゼロロはおろおろしてる。
でもゼロロの母ちゃんは怒りもせずに、それどころかおかしそうにクスクスと笑い出した。

「‥‥そう、ゼロロの友達ってあなた達だったの」

ひとしきり笑うと、俺達の頭を優しく撫でた。

「ゼロロをよろしくね。この子はね、子供の頃の私と同じで、あまり体が丈夫じゃないの」

「ゼロロの母ちゃんは、今はもう丈夫になったの?」

「ええ、もう元気よ。昔ね、あなた達によく似た子と遊んだ日から、だんだん元気になった気がするの」

「‥‥え?」

「だからね、ケロロ君やギロロ君と遊んでたら、ゼロロもきっと丈夫になれると思うのよ」

「俺達によく似た子って‥‥」

「一度しか遊べなかったんだけどね、いっしょに川遊びをしたの。とても、とても楽しかった」

「川遊び‥‥」

「勇気のある強い子達だったわ。だけど不思議なことに、それからその場所に何度も行ったんだけど、二度と会えなかったの」

「‥‥‥」

「夢だったのかもしれないって思ってたけど」

やっぱり夢じゃなかったかもねと、ゼロロの母ちゃんはにっこり笑った。
いつか会った、あの女の子と同じ笑顔だった。


帰り道、俺もケロロも無言だった。
だけどきっと同じことを考えてる。

ちらりとケロロを見たら、ケロロもこちらを見てた。

「なあ、ギロロ」
「何だよ?」
「ゼロロも本当はすっげー強いんじゃね?」
「あはは。そうかもな」
「ふふふ」

夕日にのびる、俺とケロロの影。ふわふわした足取りで歩いてた。
ゼロロと仲良くしてねって言われたことが嬉しくて。あの子とまた会えたことが嬉しくて。
俺たち二人は、もう一度顔を見合せて笑ったんだ。


FIN


ちびケロ祭り投稿作品。
シンクロする子供時代の話。ドロロママって実は強いんですよね。(2009.4.23)

妄想メイツ☆

  • Mosomate

    ケロロ軍曹でいろいろ妄想。楽しいわ~v

    妄想の末に書いたケロロSSはこちら→ 妄想劇場INDEX

WEB CLAP

  • 楽しんでいただけましたら、ぽちっとお願いします↓
    管理人の励みになります。

    久々にお礼画面のSSを更新しました。(2011.8.7)
    ほのぼの(?)クルケ口話。

リンク

  • FW

    HALCYON

    カエルドラッグ

    フェティッシュな生活

    キャラメルボックス

    有色の別室

    サイコロコロ

    Delight-log

    27.3℃

    ケロロえほん

    RED.log


    当サイトのバナーをもげさんが作ってくれました~!Thanks!
    Kerotto

    リンクフリーです。
    URL:http://kerotto-life.cocolog-nifty.com/
    管理人:けろっと
    連絡先:kerottomom☆yahoo.co.jp
     (☆→@) 何かありましたらこちらへ