妄想劇場 ~ 花 ~
ただ一面のモノクロの世界。
そこにあるのは、瓦礫と、焼け野原と、もはや動かない同胞の身体。
色のあるものは何も残っていない戦場に身を横たえ、ケロロは自分自身すら灰色の死体になったような気がした。
おそらく、何らかの通信ミスがあった。あるいは、罠か。
そうでなければ、これだけの規模を有する我がケロン軍の小隊が、壊滅的な打撃を受けることなどありえようか。
それでも、自分が隊長ならばもう少し別の対処をしたようには思う。少なくとも半分は助けられた。
ケロロは自嘲気味にうっすらと笑った。
何が「自分が隊長ならば」だ。もうすぐ死体になろうというのに。
身体が、動かない。もう終わりだ。
かまわない。自分には代わりがあるのだから。
自分の死の確認と同時に、クローンが作られるだろう。
新しい「我輩」のことも、「あいつ」は同じように怒鳴りつけるのだろうか。
同じように「おい、ケロロ」と呼ぶのだろうか。
『貴様の代わりなんぞいるか!バカもんがっ!!』
「あいつ」の声が、いつもいっしょだった赤い友の声が、聞こえた気がした。
そんなはずは無いのに。ギロロの所属する部隊は、遥か遠い母星・ケロンにいるはずなのに。
『何をやっとる!とっとと帰ってこんか!!』
何だよ、助けにも来ないくせに。我輩が今、死にそうなことも知らないくせに。
こんな幻聴になって文句を言うくらいなら、今すぐここに来いっていうんだよ。
こっちはもう、動けない‥‥‥
突然、ざわりと強い風が吹いた。
「嘘‥‥だろ‥‥」
不意に目の前に現れた、鮮やかな赤。
それは、一陣の風が吹き飛ばした瓦礫の陰に咲いていた、一輪の小さな花だった。
全てが灰色の世界に現れた、奇跡のような、赤い花。
あいつと、同じ色の―――。
『だから、とっとと帰ってこいと言うんだ!動けるだろ、貴様なら』
またギロロの声が聞こえたような気がした。
花に姿を変えて、手を差し伸べにきた気がした。
あいつと同じ、赤い花。
ああ、そうだ。まだ、我輩の目はこうして物を見ることができる。
救いの花に手を伸ばす。
そうだ、まだ我輩の手はこうして動くじゃないか。
もう少しなのに、届かない。
ケロロは、ゆらりと立ち上がった。
ギロロの言うとおりだ。そう、我輩はまだ、自分の足で歩くことだってできる。
色の無い世界に現れた、ただ一つの赤。
そして、動きだす緑。もうケロロは、灰色の死体ではなかった。
「まったく‥‥‥あの‥‥‥赤ダルマときたら‥‥‥おちおち、死なせてもくれない‥‥‥であります。‥‥‥帰って、文句‥‥‥言って、やる‥‥‥」
帰らなくてはいけない。あいつのところに。きっと待っているはずだから。
救いの花を胸に、ケロロは一人、ゆっくりと歩き始めた。
FIN
ギロケロ祭りZ参加作品。お祭り会場では、素敵な共鳴作品が見られますv
強い絆が好きなんです。私が書くものにしては珍しいくらい殺伐ですが、結構お気に入り。(2008.12.26)